19 眼窩底破裂骨折 (がんかていはれつこっせつ)

1 眼の仕組みと後遺障害について
2 眼瞼=まぶたの外傷
3 外傷性眼瞼下垂
4 動眼神経麻痺
5 ホルネル症候群
6 外転神経麻痺
7 滑車神経麻痺
8 球結膜下出血
9 角膜上皮剥離
10 角膜穿孔外傷
11 前房出血
12 外傷性散瞳
13 涙小管断裂
14 外傷性虹彩炎
15 虹彩離断
16 水晶体亜脱臼 
17 水晶体脱臼、無水晶体眼
18 外傷性白内障
19 眼窩底破裂骨折
20 視神経管骨折
21 硝子体出血
22 外傷性網膜剥離 
23 網膜振盪症
24 外傷性黄斑円孔
25 眼底出血 網膜出血・脈絡膜出血
26 眼球破裂
27 続発性緑内障 

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眼窩底は厚みが薄く、紙に例えられており、外傷で容易に損傷し、眼窩内容物が上顎洞に侵入することも頻繁ですが、生物学的には、これにより、眼球破裂を回避しているのです。

※眼窩内容物
眼窩とは、頭骨の前面にあって眼球が入り込む窪みですが、眼窩内容物とは、眼球や視神経・外眼筋・涙腺などの付属器神経、血管、脂肪などのことで、眼窩では、これらを収納し、保護しています。

眼窩を構成する骨は、頬骨、上顎骨、涙骨、篩骨、前頭骨、口蓋骨、蝶形骨の7つで、眼窩の上縁と下縁はそれぞれ前頭骨と上顎骨によって形成されています。
前頭骨と上顎骨は、強度があり、骨折し難いのですが、眼窩底は厚みが薄く、とりわけ篩骨は、外傷で容易に骨折してしまいます。
眼窩底破裂骨折は、吹き抜け骨折とも呼ばれ、特に、眼窩内側と眼窩底に多発しています。

ふきぬけ骨折では、眼窩内の出血が副鼻腔を介して鼻出血を生じることもあり、眼球運動障害、複視、 視野障害、眼球陥凹、瞼裂狭小化、眼窩下神経領域の知覚障害を発症することがあります。

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交通事故では、歩行者、自転車、バイクの運転者に多く、顔面を強く打撲することで、発症しています。
眼窩底破裂骨折では、事故直後に眼球が陥凹、あっという間に、眼窩内出血やまぶたの腫脹によって眼瞼が狭小化しますが、眼球自体には、損傷がおよばないことがほとんどです。

検査は、顔面の単純XP、内側壁骨折に対してはCTが有効です。
頭部CTでは、3DCTで眼球陥凹と内側壁骨折所見がハッキリと描出されます。
頭部外傷では、MRI撮影も必要です。
眼窩底破裂骨折は、頭蓋骨骨折ですから、脳神経外科の対応が必要です。
脳震盪、脳挫傷、眼窩下神経障害、視神経障害を合併することがあります。

直後の症状では、眼球の上転障害がみられ、これに伴う複視や視野障害、眼窩下神経領域の感覚障害により頬から上口唇のシビレ、眼球陥没、痛み、骨折部分の腫れ、皮下気腫、目の周りの青紫色のあざ、鼻出血、眼球下垂、球後血腫、眼球内陥、視野狭窄、吐き気などがあります。

※球後出血
眼窩骨折では、骨折で傷ついた血管から出た血が溜まることがあり、これを球後出血と呼びます。
そうなると、眼球や視神経、眼球に出入りする血管が圧迫されて視力障害を起こすことがあります。

※眼球陥入、眼球内陥、眼球陥没
眼窩壁の骨折が広い範囲におよぶときは、眼球が眼窩の中に沈み込みます。
このことを眼球陥入などと言います。

眼窩底骨折の治療は、骨折した部分の整復手術です。
骨の損傷が軽度では、骨を整復して眼窩内容物を落ないように固定します。

手術が必要なのは、以下の2つです。
①骨折した部分に眼球周囲の筋肉や眼窩内の軟部組織が挟まり、複視が生じているとき
②眼球が眼窩内に陥入しているとき

骨の損傷が重度では、チタン製やシリコン素材などで作られた補正用プレートを眼窩内に入れ、眼球を支える土台を作ることもあります。
腸骨からの骨移植で、骨癒合を促進させることも実施されています。
その他に、上顎洞バルーン、分かりやすくは風船素材を鼻腔内に3~4週間挿入し、眼球を支える手術も行われています。

鼻出血では、鼻をかむことを避ける指示がなされ、代わりに、スプレー式点鼻薬が使用されています。
また、骨折がごく軽度では、オペを見送り、経過観察をすることもあります。

眼窩底破裂骨折における後遺障害のポイント

交通事故外傷では、上手に修復されたとしても、複視を残すことが多いのです。
骨折部分や骨の欠片が、眼を動かす筋肉やその筋肉を支配している神経などを損傷させ、これらの筋肉などの損傷では、眼を上下左右に適切に動かせなくなり、物が2重に見える複視が生じるのです。
複視には正面視での複視、左右上下の複視の2種類があります。

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検査には、ヘスコオルジメーター=ヘススクリーンを使用し、複像表のパターンで判断します。

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ヘスコオルジメーター

複視の後遺障害の認定要件は、以下の3つとなります。
①本人が複視のあることを自覚していること
②眼筋の麻痺など、複視を残す明らかな原因が認められること
③ヘススクリーンテストにより患側の像が水平方向または垂直方向の目盛りで5°以上離れた位置にあることが確認されること

正面視で複視を残すものとは、ヘススクリーンテストにより正面視で複視が中心の位置にあることが確認されたもので、正面視以外で複視を残すものとは、上記以外のものをいいます。

複視は、眼球の運動障害によって生ずるものですが、複視を残すと共に眼球に著しい運動障害を残したときは、いずれか上位の等級で認定することになります。

正面視の複視は、両眼で見ると高度の頭痛や眩暈が生じるので、日常生活や業務に著しい支障を来すものとして10級2号の認定がされることが予想されます。

左右上下の複視は正面視の複視ほどの大きな支障は考えられないのですが、軽度の頭痛や眼精疲労は認められます。この場合は13級2号の認定がされることが予想されます。

眼球の運動障害
10級2号 正面視で複視を残すもの
11級1号 両眼の眼球に著しい調節機能障害、または運動障害を残すもの
12級1号 1眼の眼球に著しい調節機能障害、または運動障害を残すもの
13級2号 正面視以外を見た場合に複視の症状を残すもの

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