30 下腿のコンパートメント症候群

18 膝関節の仕組み
19 膝関節内骨折 𦙾骨顆部骨折 (けいこつかぶこっせつ)
20 𦙾骨と腓骨の働き 腓骨は役目を果たしているのか
21 𦙾骨顆間隆起骨折 (けいこつかかんりゅうきこっせつ)
22 膝蓋骨骨折(しつがいこつこっせつ)
23 膝蓋骨脱臼 (しつがいこつだっきゅう)
24 膝蓋骨骨軟骨骨折(しつがいこつこつなんこつこっせつ)・スリーブ骨折
25 膝離断性骨軟骨炎 (しつりだんせいこつなんこつえん)
26 膝蓋前滑液包炎 (しつがいぜんかつえきほうえん)
27 膝窩動脈損傷 (しつかどうみゃくそんしょう)
28 腓骨骨折 (ひこつこっせつ)
29 𦙾・腓骨骨幹部開放性骨折 (けい・ひこつこつかんぶかいほうせいこっせつ)
30 下腿のコンパートメント症候群
31 変形性膝関節症(へんけいせいしつかんせつしょう)
32 腓腹筋断裂(ひふくきんだんれつ)、肉離れ
33 肉離れ、筋違いと捻挫、腸腰筋の出血、腸腰筋挫傷(ちょうようきんざしょう)
34 半月板損傷 (はんげつばんそんしょう)

 

上・下肢の筋肉、血管や神経組織は、筋膜や骨間膜に囲まれており、この閉鎖された空間、構造をコンパートメント、あるいは筋区画と呼んでいます。

下腿には、イラストで示すように、前部、外側、深後部、浅後部の4つのコンパートメントがあります。

 

※参考までに、前腕部のコンパートメントは、屈筋群、伸筋群、橈側伸筋群の3つです。

前腕部に生じたものは、コンパートメント症候群ではなく、フォルクマン拘縮と呼ばれています。

前腕部では、屈筋群が非可逆性壊死に陥り、その末梢に拘縮や麻痺を生じることが多いのです。

 

交通事故による大きな衝撃で、この内部に出血が起きると内圧が上昇し、細動脈を圧迫・閉塞します。筋肉や神経に血液が送れなくなって循環不全が発生し、筋・腱・神経組織は壊死状態となります。

この状態が長く続くと、元に戻らなくなってしまいます。

元に戻らなくなることを、医学の世界では、非可逆性変化と言います。

筋肉は4~12時間、神経は12時間を経過すると非可逆性となります。

𦙾骨骨幹部骨折に合併して、コンパートメント症候群を発症することがあるのです。

 

下腿のコンパートメント症候群では、前𦙾骨筋、足の親指を伸ばす筋肉である長母趾伸筋、前𦙾骨動静脈・腓骨神経が障害を受けます。

 

経験則では、下腿骨の徒手整復術を終え、ギプス固定の状態で病室に戻って来た被害者の方が下腿部の疼痛を訴えるところから始まります。

 

①puffiness=著明な腫れ

②pain=疼痛

③pulselessness=動脈拍動の減少ないし消失

④pallor=四肢の蒼白

⑤paralysis=知覚異常

 

これら5つのPが認められれば、コンパートメント症候群です。

初期症状を説明しましたが、最終的には、筋肉がカチカチに拘縮してしまいます。

 

治療では、ただちに筋膜の切開、血腫の除去が実施されます。

安静や下腿を上に挙げたりしますが、フォルクマン拘縮と同じく、一度コンパートメント症候群が進み、筋肉の壊死までなってしまうと、基本的には治療法はありません。

あくまでも、発生予防を心がけることになります。

 

飛行機の長旅で死に至る、エコノミー症候群が、過去、話題になりましたが、これも、コンパートメント症候群の一種です。

下腿のコンパートメント症候群における後遺障害のポイント

 

𦙾・腓骨骨骨幹部開放性骨折など、手術による内固定がなされたときは、コンパートメント症候群を発症することはありません。

 

注意を要するのは、𦙾・腓骨の閉鎖性骨折で転位が少ないときです。

非開放性で、転位のないときは、整復の上、ギプス固定がなされます。

被害者の方が下腿の疼痛を訴えるも、鎮痛消炎剤の投与で見過ごされたときは、時間の経過にしたがって、深刻な症状を来します。

非可逆性に進行し、腓骨神経障害により、足関節の用廃で8級7号、一足の足趾のすべての用廃で9級15号が認定され、7級相当が認定されることがあり得ます。

 

 

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