9 変形性股関節症 (へんけいせいこかんせつしょう)

5 股関節の仕組み
6 股関節後方脱臼・骨折 (こかんせつこうほうだっきゅう・こっせつ)
7 股関節中心性脱臼 (こかんせつちゅうしんせいだっきゅう)
8 外傷性骨化性筋炎 (がいしょうせいこっかせいきんえん)
9 変形性股関節症 (へんけいせいこかんせつしょう)
10 ステム周囲骨折
11 股関節唇損傷 (こかんせつしんそんしょう)
12 腸腰筋の出血、腸腰筋挫傷 (ちょうようきんざしょう)

変形性股関節症は、先天性の臼蓋形成不全、発育性股関節脱臼、大腿骨頭すべり症、ペルテス病など小児の股関節の病気、また、痛風や化膿性関節炎などによる炎症を原因としたものが中心ですが、ここでは、交通事故による骨折や脱臼など、外傷を原因としたものに絞って解説します。

①                     ②                     ③

①股関節の隙間が保たれています。

②股関節の隙間が狭くなっています。

③股関節部の軟骨はすり減り、大腿骨頭が変形し、骨棘が見えています。

 

股関節に限らず、変形性関節症とは、関節の軟骨部が摩耗し、骨に変形をもたらす傷病名です。

骨盤骨骨折では、骨盤輪の連続性が失われるストラドル骨折やマルゲーニュ骨折、仙腸関節の脱臼を伴う恥骨結合離開、大腿骨頭の納まる部分の寛骨臼の挫滅的な骨折などがあります。

 

股関節部では、股関節後方脱臼骨折、股関節中心性脱臼の重症例では、時間の経過によって、変形性股関節症を発症することが予想されます。

軽度な股関節唇損傷であっても、損傷が見逃され、放置されることにより、股関節部の軟骨が広範囲に傷つき、変形性股関節症に移行することが考えられるのです。

 

症状ですが、股関節は、脚の付け根に位置しており、初期症状では、立ち上がった時や、歩き始めの時に、脚の付け根に痛みを感じる程度ですが、変形性股関節症が進行すると、持続する痛みで、足の爪が切りにくい、靴下が履きにくい、和式トイレや正座が困難となり、日常生活でも、長い時間の立ち仕事や歩くことが辛くなり、階段や車・バスの乗降も、手すりに頼ることになります。

 

股関節部のXP撮影で、確定診断がなされていますが、拡がりを観察するときには、CTが有用です。

 

治療は、保存療法と手術療法に分けられます。

早期であれば、保存療法で進行を抑えることができます。

鎮痛消炎剤の薬物療法、プールでの水中歩行などによる筋力トレーニング、食事制限による肥満の防止、これらの3点セットが有効です。

 

中期となれば、骨切り術が選択されています。

骨切り術は、関節近くの骨を切って、関節の向きを調整し、残っている軟骨部に荷重を移動させるのですが、自分の骨を使うので、破損や摩耗の心配がなく、かなりの高い活動性が確保されます。

 

体重がかかる部分の関節軟骨は消失し、その下にある軟骨下骨が露出する末期となると、骨切り術で改善を得ることは不可能であり、人工関節全置換術の適用となります。

変形性股関節症における後遺障害のポイント

 

1)人工関節では、

ⅰ超高分子量ポリエチレンやセラミックが普及し、耐久性が15~20年と伸びたこと

ⅱ無菌手術室により、感染症のリスクが低下していること

ⅲ変形性関節症の高齢者が増えていること

ⅳなにより診療報酬が稼げること

これらを理由として、人工股関節全置換術の件数が急上昇しています。

 

2)交通事故受傷により、股関節部の粉砕骨折、寛骨臼の挫滅的な骨折では、人工股関節全置換術もやむを得ない選択となります。

 

しかし、中程度の骨折であれば、自分の骨を使用して骨切り術を受けることが優先されます。

自分の骨であれば、破損や摩耗の心配がなく、専門医であれば、高い活動性を確保してくれます。

その後は、プールでの水中歩行などによる筋力トレーニングや肥満の防止に努めれば、股関節を維持させていくことが可能であるからです。

参考までに、体重を1kg減らすことができれば、膝関節の負担は約3kg、股関節に対しては約4kg、階段昇降時の膝においては約7kgの負担軽減ができると報告されています。

 

骨切り術には、棚形成術、寛骨臼回転骨切り術、キアリー骨盤骨切り術がありますが、いずれも、関節近くの骨切りで、関節の向きを調整し、残存の軟骨部に荷重を移動させる方法が採用されています。

3)後遺障害等級では、人工関節置換術となると10級11号が認定されます。

人工関節に置換した股関節の可動域が健側の2分の1以下に制限されているときは、8級7号が認定されますが、この後遺障害は、滅多に残すことはありません。

 

骨切り術では、適切な時期に症状固定すれば、12級7号となります。

しかし、快適な生活を維持されたいのであれば、後遺障害等級が下がっても、骨切り術を選択すべきです。

 

 

4)さて、変形性股関節症は、交通事故後の2次性疾患ですから、治療中に変形性股関節症となって手術を受けることは少ないのです。

示談から3、5年、長ければ10年近くを経過して、手術を受けることが想定されるのです。

であっても、人工関節置換では、8級7号、もしくは10級11号が認定されることになり、前回の認定等級との差額を請求しなければなりません。

 

5)多年を経過しての掘り起こしは、大変面倒なものです。

 

ⅰ相談するにしても、示談書の控え、前回の交通事故のファイルは、残してあるのか

ⅱ当時の保険会社は、未だ残っているのか

ⅲ保険会社は、当時の一件書類を離れた倉庫で保管しており、書類を確認に時間を要するか

 

骨盤骨のストラドル骨折やマルゲーニュ骨折、仙腸関節の脱臼を伴う恥骨結合離開、大腿骨頭の納まる部分の寛骨臼の壊滅的な損傷、股関節部の股関節後方脱臼骨折、股関節中心性脱臼の重症例では、時間の経過によって、変形性股関節症を発症することが懸念されるときは、交通事故に長けた弁護士に委任して示談締結することをお勧めします。

 

示談書に、「今後、乙に本件事故が起因する新たな後遺障害が発現したる際は、甲乙間において、別途協議を行うものとする。」 旨の文言の記載が必要です。

 

6)末期股関節症の、重労働に従事する比較的若年の男性では、膝・足関節、反対側の股関節、腰椎に異常がないときは、股関節固定術の適応がなされることがあります。

固定術により、痛みからは開放されますが、股関節が全く動かなくなり、日常生活上、不自由が多く、特に女性への適応は好ましくないと考えています。

後遺障害等級は、下肢の1関節の用廃で8級7号が認定され得ますが、日常生活を考えると、お勧めはできません。

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