13 脊髄損傷
1 背骨の仕組み
2 外傷性頚部症候群(がいしょうせいけいぶしょうこうぐん)
3 外傷性頚部症候群の神経症状について
4 バレ・リュー症候群と耳鳴り、その他の障害について
5 腰部捻挫・外傷性腰部症候群
6 外傷性腰部症候群の神経症状
7 腰椎横突起骨折 (ようついおうとっきこっせつ)
8 上腕神経叢麻痺 (じょうわんしんけいそうまひ)
9 中心性頚髄損傷
10 環軸椎脱臼・亜脱臼 (かんじくついだっきゅう・あだっきゅう)
11 上位頚髄損傷 C1/2/3 (じょういけいずいそんしょう)
12 横隔膜ペーシング
13 脊髄損傷
14 脊髄不全損傷=非骨傷性頚髄損傷
15 脊髄の前角障害、前根障害
16 脊髄の後角障害、後根障害
17 バーナー症候群
18 脊髄空洞症
19 頚椎症性脊髄症
20 後縦靱帯骨化症 OPLL
21 腰部脊柱管狭窄症
22 椎骨脳底動脈血行不全症 (ついこつのうていどうみゃくけっこうふぜんしょう)
23 腰椎分離・すべり症
24 胸郭出口症候群 (きょうかくでぐちしょうこうぐん)
25 複合性局所疼痛症候群 (ふくごうせいきょくしょとうつうしょうこうぐん) CRPS
26 低髄液圧症候群=脳脊髄液減少症= CSFH (のうせきずいえきげんしょうしょう)
27 梨状筋症候群 (りじょうきんしょうこうぐん)
28 線維筋痛症 (せんいきんつうしょう)
膀胱の働きを調節する神経は、仙髄から大脳までの長い経路を走行しており、脊髄損傷では、損傷部位の高さにかかわらず、排尿障害を伴うことが予想されます。
脊髄は脊椎によって囲まれた脊柱管というトンネルを通り、脳からの指令を手や足などの末梢に伝達し、反対に末梢からの信号を脳へ伝達する役割を果たしています。
顔面以外の運動や感覚は、全て、この脊髄を介して行われているのです。
脊髄は、それぞれ左右へ末梢へ枝を出しており、その枝の出ている位置から髄節という単位に分類され、頚髄は8、胸髄は12、腰髄は5、仙髄は5の髄節に分類されます。
脊髄が損傷されると、その障害された部位より下方向には脳からの指令が伝達されなくなり、下からの信号も脳に伝達できなくなります。
そのため、運動麻痺、感覚、自律神経、排尿、排便障害などのさまざまな障害が生じます。
脊髄は脳と同様に中枢神経に分類され、成人では、神経細胞が損傷されると、現状では、その再生は困難であり、後遺障害を残すことになります。
脊髄損傷では、高率に排尿障害を合併します。
膀胱に尿をためたり出したりする機能は、脊髄の一番下の部位にある排尿中枢というところで制御しているのですが、排尿中枢は大脳や脳幹部からの指令によって調節されており、脊髄のどの部位に障害を受けても、排尿障害がおこるのです。
この病態は、神経因性膀胱と呼ばれています。
排尿障害には、膀胱に尿をためる障害と排出する障害がありますが、脊髄損傷では、その両方が合併することが一般的です。
ためることができないと、膀胱が異常に収縮し、尿失禁が起こります。
膀胱の異常な収縮によって膀胱に高い圧力がかかると、徐々に膀胱が損傷され、変形してきます。
膀胱変形が進行すると、腎臓に負担がかかり、放置しておくと腎機能障害に発展、透析が必要な状態になることもあります。
同時に、脊髄障害では、尿をスムーズに排出することができなくなります。
排尿機能の障害でも、膀胱に負担がかかり、膀胱変形や腎機能障害をもたらすことが多いのです。
脊髄障害に対する対処は、間欠導尿法が最も優れた方法といわれています。
異常な収縮に対しては、これを抑えるための抗コリン剤という薬の内服で対処されています。
間欠導尿ができないときは、カテーテルを常時留置することになりますが、この場合には膀胱瘻といって、下腹部にカテーテルを留置する人工的な穴を作る方法、膀胱瘻が、長期的には合併症も少なく最善の方法とされています。
膀胱瘻の造設には、手術が必要となります。
神経因性膀胱における後遺障害のポイント
1)排尿の機能障害
排尿とは、貯留した尿を意図的に排出することであり、排尿機能障害は、排尿困難、残尿感あるいは尿閉などの症状として出現します。
①高度の排尿障害が認められるものは9級11号が認定されます。
排尿障害が認められるとは、脊髄損傷など神経因性の排尿障害の原因が明らかであると医師により診断されていることであり、高度の排尿障害とは、残尿が100ml以上であることが超音波画像検査=ウロダイナミクス検査で立証されていることを意味しています。
②中等度の排尿障害が認められるものは11級10号が認定されます。
排尿障害が認められるとは、脊髄損傷など神経因性の排尿障害の原因が明らかであると医師により診断されていることで、中等度の排尿障害とは、残尿が50ml以上100ml未満であることが、超音波画像検査=ウロダイナミクス検査で立証されていることを意味しています。
2)蓄尿の機能障害
蓄尿とは、一定量の尿を膀胱内に貯留することを意味しています。
蓄尿機能障害とは、尿失禁として現れ、尿意が保たれているときは、頻尿の症状となります。
尿失禁とは、無意識、意思に反して尿が尿道、または尿道以外から体外に漏れる状態を言います。
尿失禁は、3つに分類されています。
持続性尿失禁
膀胱の括約筋機能が低下、または欠如しているため、尿を膀胱内に蓄えることができず、常に尿道から尿が漏出する状態のことで、膀胱括約筋の損傷、または支配神経の損傷により出現します。
切迫性尿失禁
強い尿意に伴い、不随意に尿が漏れる状態であり、尿意を感じても、我慢することができずに尿失禁が生じます。
頭部外傷により、脳の排尿中枢を含む排尿反射抑制路の障害が考えられます。
腹圧性尿失禁
笑ったり、咳やくしゃみ、重い荷物を持ち上げたりしたとき、歩行や激しい運動などによって急激に腹圧が上昇したときに尿が漏れる状態を言います。
尿道外傷による括約筋の障害で生じることが考えられます。
①持続性尿失禁であると医師により認められるものは7級5号が認定されます。
持続性尿失禁とは、以下の2つの要件のいずれも満たさなければなりません。
・膀胱括約筋の損傷、または支配神経の損傷が医学的に確認できること
・上記の損傷により蓄尿の機能が失われていることが医学的に確認できること
いずれも、超音波画像検査=ウロダイナミクス検査で立証することができます。
②高度の尿失禁であると医師により認められるものは7級5号が認定されます。
尿失禁であるとは、切迫性尿失禁、または腹圧性尿失禁のいずれかの要件を満たすもので、また、高度の尿失禁であるとは、終日パッド等を装着しなければならず、かつ、パッドをしばしば交換しなければならないと医師により認められるものを言います。
③中等度の尿失禁であると医師により認められるものは9級11号が認定されます。
尿失禁であるとは、切迫性尿失禁、または腹圧性尿失禁のいずれかの要件を満たすもので、中等度の尿失禁とは、常時パッドを装着しなければならないが、パッドの交換までは要しないと医師により認められるものを言います。
④軽度の尿失禁であると医師により認められるものは11級10号が認定されます。
尿失禁とは、切迫性尿失禁、または腹圧性尿失禁のいずれかの要件を満たすもので、軽度の尿失禁とは、常時パッド等の装着は要しないが、下着が少し濡れると医師により認められるものを言います。
⑤頻尿を残すと医師により認められるものは11級10号が認定されます。
頻尿を残すとは、以下の3つのいずれの要件も満たさなければなりません。
①器質的病変による膀胱容量の減少、または膀胱若しくは尿道の支配神経の損傷が超音波画像検査=ウロダイナミクス検査で立証されていること、
②日中8回以上の排尿が、医師の所見により認められること、
③多飲など、頻尿となる他の原因が認められないこと、