9 中心性頚髄損傷

1 背骨の仕組み
2 外傷性頚部症候群(がいしょうせいけいぶしょうこうぐん)
3 外傷性頚部症候群の神経症状について
4 バレ・リュー症候群と耳鳴り、その他の障害について
5 腰部捻挫・外傷性腰部症候群
6 外傷性腰部症候群の神経症状
7 腰椎横突起骨折 (ようついおうとっきこっせつ)
8 上腕神経叢麻痺 (じょうわんしんけいそうまひ)
9 中心性頚髄損傷
10 環軸椎脱臼・亜脱臼 (かんじくついだっきゅう・あだっきゅう)
11 上位頚髄損傷 C1/2/3 (じょういけいずいそんしょう)
12 横隔膜ペーシング
13 脊髄損傷
14 脊髄不全損傷=非骨傷性頚髄損傷
15 脊髄の前角障害、前根障害
16 脊髄の後角障害、後根障害
17 バーナー症候群
18 脊髄空洞症
19 頚椎症性脊髄症
20 後縦靱帯骨化症 OPLL
21 腰部脊柱管狭窄症
22 椎骨脳底動脈血行不全症 (ついこつのうていどうみゃくけっこうふぜんしょう)
23 腰椎分離・すべり症
24 胸郭出口症候群 (きょうかくでぐちしょうこうぐん)
25 複合性局所疼痛症候群 (ふくごうせいきょくしょとうつうしょうこうぐん) CRPS
26 低髄液圧症候群=脳脊髄液減少症= CSFH (のうせきずいえきげんしょうしょう)
27 梨状筋症候群 (りじょうきんしょうこうぐん)
28 線維筋痛症 (せんいきんつうしょう)

 

脊髄損傷は、大きな外力が脊椎に加わることで、骨折や脱臼となり、発症しています。
ところが、中心性頚髄損傷は、骨折などが認められないのに、運動麻痺、疼痛、ビリビリするような両上肢や手指の痺れの訴えがなされるのです。
頚部が急激に後ろに反り返る過伸展が、中心性頚髄損傷の原因と考えられています。
また、この症例は、変形性脊椎症、脊柱管狭窄症が認められる中年以降の被害者の方に、比較的軽微な受傷機転、例えばちょっとした追突などで発症することも報告されています。

上肢を支配する神経線維は頚髄の中心寄り、下肢では、外側寄りに位置することから、中心部が損傷を受けると、上肢の症状が重く出現します。
頚髄の辺縁部は周辺を取り囲む多くの血管によって栄養を受けていますが、中心部は中心動脈から枝分かれした毛細血管から栄養を受けています。
このことからも、頚髄中心部は損傷を受けやすく、回復しにくいという特徴があります。
上肢の症状が強く、運動麻痺、疼痛、ビリビリするような両手や手指の痺れ、衣服のボタンを留めることができない等、手指の巧緻運動障害を引き起こします。
神経学的検査では、深部腱反射が亢進、ホフマン反射、トレムナー反射、ワルテンベルグ徴候では病的反射が出現し、両上肢は筋萎縮でやせ細ります。
そして、箸を使用して食事ができない等、手指の巧緻運動障害が認められます。

ホフマン反射        トレムナー反射

ワルテンベルグ徴候

MRIのT2強調画像では、脊髄の中心部が白く光る、高輝度所見が認められます。
損害保険料算出機構自賠責調査事務所は、上記の高輝度所見を認定の要件としていますが、この画像所見が確認できるのは、受傷後の急性期、2、3ヶ月に限定されると言われています。
慢性期にはT1強調画像で軟化型損傷を発見、立証する必要があるのですが、画像所見が得られにくいことが多く、簡単なことではありません。

中心性頚髄損傷のMRI T2強調画像です。
C6右横の脊髄に白い高輝度所見が確認できます。
(脊髄症状で7級4号が認定)
※T1強調画像とは、体内の脂肪分を強調して撮影する方法で、椎間板の突出や出血の状態を確認するのに有意な撮影方法です。全体的に黒っぽく、コントラストがハッキリして見えます。
※T2強調画像は、体内の水分を強調して撮影する方法で、髄液や膀胱内の状態を確認するのに有意な撮影法であり、全体的に白っぽくぼやけているような印象を受けます。
膀胱障害が認められることもあり、このケースでは、泌尿器科でウロダイナミクス検査により立証しています。

中心性頚髄損傷における後遺障害のポイント

1)中心性頚髄損傷とムチウチ
中心性頚髄損傷と診断されていても、MRIで高輝度所見の得られない頚椎症、中には単純ムチウチで症状過多も混在しています。
中心性頚髄損傷となれば、事故直後のステロイド療法が有効とされており、被害者の方が両上肢の痺れを訴えただけで、入院を指示し、ステロイド療法を実施する治療先もあります。
この治療が終了、MRIの撮影を行っても、高輝度所見が得られないときは、中心性頚髄損傷ではなく頚椎症となります。
2)中心性頚髄損傷の傷病名があれば、早期のMRI撮影で高輝度所見を立証しなければなりません。
立証された中心性頚髄損傷は、脊髄損傷ですから、決して、ムチウチのカテゴリーではありません。
後遺障害の立証では、後遺障害診断書以外に、「脊髄症状判定用」 の用紙を提出し、肩・肘機能、手指機能、下肢機能、上肢・下肢・体幹の知覚機能、膀胱機能、日常生活状況についての作成をお願いしなければなりません。
そのため、事前に脊髄症状のチェックを行い、日常生活状況については、職業上の具体的な支障について記載した書面を主治医に提示することになります。
3)等級は、神経系統の機能の障害で審査され、障害の程度により、9級10号、7級4号、5級2号が選択されています。膀胱機能障害は、併合の対象となります。

 

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