8 上腕神経叢麻痺 (じょうわんしんけいそうまひ)

1 背骨の仕組み
2 外傷性頚部症候群(がいしょうせいけいぶしょうこうぐん)
3 外傷性頚部症候群の神経症状について
4 バレ・リュー症候群と耳鳴り、その他の障害について
5 腰部捻挫・外傷性腰部症候群
6 外傷性腰部症候群の神経症状
7 腰椎横突起骨折 (ようついおうとっきこっせつ)
8 上腕神経叢麻痺 (じょうわんしんけいそうまひ)
9 中心性頚髄損傷
10 環軸椎脱臼・亜脱臼 (かんじくついだっきゅう・あだっきゅう)
11 上位頚髄損傷 C1/2/3 (じょういけいずいそんしょう)
12 横隔膜ペーシング
13 脊髄損傷
14 脊髄不全損傷=非骨傷性頚髄損傷
15 脊髄の前角障害、前根障害
16 脊髄の後角障害、後根障害
17 バーナー症候群
18 脊髄空洞症
19 頚椎症性脊髄症
20 後縦靱帯骨化症 OPLL
21 腰部脊柱管狭窄症
22 椎骨脳底動脈血行不全症 (ついこつのうていどうみゃくけっこうふぜんしょう)
23 腰椎分離・すべり症
24 胸郭出口症候群 (きょうかくでぐちしょうこうぐん)
25 複合性局所疼痛症候群 (ふくごうせいきょくしょとうつうしょうこうぐん) CRPS
26 低髄液圧症候群=脳脊髄液減少症= CSFH (のうせきずいえきげんしょうしょう)
27 梨状筋症候群 (りじょうきんしょうこうぐん)
28 線維筋痛症 (せんいきんつうしょう)
上肢・手指の後遺傷害としては、上腕神経叢麻痺が最も重症例です。
本来は、頚椎神経根の引き抜き損傷ですから、自賠責保険では、脊椎・脊髄のカテゴリーの分類としていますが、症状が上肢に集中するところから、ここでは、上肢の障害として取り上げています。
全型の引き抜き損傷では、肩・肘・手関節の用を廃し、手指も動かなくなります。
この場合、上肢の用廃として、5級6号が認定される深刻な後遺障害となります。
上肢、手の運動は、頚髄から出ている5本の神経根、C5頚髄神経根からT1胸髄神経根を通過して、各々の末梢神経に伝えられており、左鎖骨下動脈部を指で圧迫すると左上肢が痺れてくるのは、鎖骨下動脈の下に、上肢に通過している5本の上腕神経叢があるからです。
指で圧迫しなくても痺れを発症している場合は、胸郭出口症候群と呼ばれています。
上腕神経叢の叢とは草むらを意味するのですが、5本の神経根が草むらのように複雑に交差しているところから、上腕神経叢と呼ばれているのです。
上腕神経叢麻痺は、バイク・自転車で走行中の事故受傷で、肩から転落した際に側頚部から出ている神経根が損傷して発症します。
C5頚髄神経は 肩の運動
C6頚髄神経は 肘の屈曲
C7頚髄神経は、肘の伸展と手首の伸展
C8頚髄神経は、手指の屈曲
T1胸髄神経は、手指の伸展をそれぞれ分担しています。
これらの神経根が事故受傷により引きちぎられるのですから、握力の低下に止まらず、支配領域である上肢の神経麻痺という深刻な症状が出現します。
①脊髄から神経根が引き抜ける損傷が最も重篤で予後不良ですが、引き抜き損傷であれば、脊髄液検査で血性を示し、CTミエログラフィー検査で、造影剤の漏出を確認し立証することになります。
そして、引き抜き損傷では、眼瞼下垂、縮瞳および眼球陥没のホルネル症候群を伴う可能性が大きくなり、手指の異常発汗が認められます。
②神経根からの引き抜きはないものの、その先で断裂、引きちぎられる場合があります。
断裂では、ミエログラフィー検査で異常が認められず、ホルネル症候群も、異常発汗を示さないこともあります。
このケースでは、脊髄造影、神経根造影、自律神経機能検査、針筋電図検査等の電気生理学的検査、MRI検査などで立証することになります。
③神経外周の連続性は温存されているのに、軸索だけが損傷されているのを軸索損傷と呼び、このケースであれば、3ヶ月位で麻痺が自然回復し後遺障害の対象ではありません。
④神経外周も軸索も切れていないのに、神経自体がショックに陥り、麻痺している状態があります。
神経虚脱と呼ばれていますが、3週間以内に麻痺は回復、これも後遺障害の対象ではありません。
治療は、受傷後、できるだけ早期に神経縫合や肋間神経移行術、神経血管付筋移行術を受けることになります。なぜなら、6ヶ月以降に手術をしても、筋肉が萎縮し、例え神経が回復しても充分な筋力が回復できないからです。
当然、手の専門医の領域ですが、予後は不良です。
上肢の機能の実用性を考慮して、等級の評価が行われています。

上腕神経叢麻痺における後遺障害のポイント

1)後遺障害等級
①全型の引き抜き損傷では、肩・肘・手関節・手指の用廃であり、一上肢の用廃で5級6号が、
②C6~T1の引き抜き損傷では、一上肢の2関節の用廃で6級6号、手指の用廃で7級7号となり、併合のルールでは2等級引き上げで、併合4級となりますが、一上肢を手関節以上で失ったものにはおよばず、併合6級が、
③C7~T1の引き抜き損傷では、手関節の機能障害で10級10号、5の手指の用廃で7級7号、併合のルールでは5級になりますが、一上肢の2関節の用廃にはおよばず、併合7級が、
④C8~T1の引き抜き損傷では、5の手指の用廃で7級7号が認定されます。

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