5 気管・気管支断裂 (きかん・きかんしだんれつ)
気管は空気を口から肺へ送り込む導管です。
気管の外傷は少数例ですが、呼吸に関わることであり、重症例では死に至る深刻なものです。
交通事故では、バイクの運転者に多く、頚部に直接外力が加わる転倒時に、頚部を強く打撲したり、急激に頚部が引き伸ばされたときなどに受傷します。自動車であっても、高速で走行中の衝突事故では、体に大きな外力が作用し、体内で引き千切られるように断裂すると考えられています。
症状は、血痰や呼吸困難ですが、頚部皮下気腫や縦隔気腫を伴うことが最大の特徴です。
受傷直後から、これらの症状が現れ進行していくので、救急搬送を急がなければなりません。
血痰、呼吸困難、頚部皮下気腫が認められると、気管断裂が強く疑われます。
胸部CT、気管支鏡検査により確定診断がなされています。
損傷が軽度であれば、自然に回復することもありますが、中程度以上の単独損傷では、緊急手術により、気管断裂部の修復術が実施されます。
多臓器損傷が合併しているときは、気管内挿管や気管切開を行って、損傷部を越えて気管内チューブを健常部にまで挿入し、換気を確保します。
手術は、全身状態が落ち着いてから実施されます。
外傷後の瘢痕を剥がすように、気管断裂部にアプローチするのですが、頚部には、動静脈や神経、食道が走行しており、当然、専門医の領域です。
頚部気管の完全断裂症例は、救命が非常に困難な外傷であり、進行性の呼吸困難で窒息の危険があるときは、事故現場で気管切開が実施されることもあります。
また、息苦しさ、息切れの症状がみられる場合は、スパイロメトリー検査を実施します。
※スパイロメトリー検査
呼吸の呼気量と吸気量を測定し、呼吸の能力を判定します。
※肺活量
空気を最大限吸入して、最大限吐いたときの量です。
通常、年齢と身長によって計算した予測正常値と比較し、%肺活量として表します。
※1秒率
肺活量を測定するときに、最初の1秒間に全体の何%を吐き出せるかの値です。
肺の弾力性や気道の閉塞の程度を示します。
弾力性がよく、閉塞がないと値は大きくなります。
スパイロメトリー検査 おおよその目安 | ||
%肺活量 | 1秒率 | レベル・障害の状態 |
80以上 | 70以上 | 正常 |
79以下 | 70以上 | 拘束性 肺の弾力性低下、胸部拡張障害、呼吸運動の障害 |
80以上 | 69以下 | 閉塞性 気道閉塞、肺気腫 |
79以下 | 69以下 | 上記の2つが混合したもの |